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常にクリエイターでいたいがアーティスト傾向が高い人間の考えまとめ。自分が読み返して、面白かったりタメになったりしていますように

星新一賞応募作品::人に注意できるアンドロイド

読者数は2人に増え、またアクセス数が上がっているのでありがたく感じます。
文化放送のラジオCM思います。作品を載せたのも要因でしょうか?

星新一賞の途中経過が発表されていたので、応募した作品をアップします。
誤字脱字があるかもしれませんし、修正したい箇所がありますが、取り敢えず中野信子先生がサイトで言っていた普遍性やメッセージ性は感じられるかと思います。
それでは8000文字ぐらいありますが、読んでもらえると幸いです。
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 晴れた昼頃の時間、私はGoogleマップで再度位置を確認した。まだ夏前半ではあると言うのに、かなり暑い。
 やっぱりズボンじゃなくてスカートを履けば良かったと後悔しているけど、普段からあまり履かないスカートよりも、ショートヘアーの私にはズボンの方が似合うと思っている。
 目的地の校舎へと着いた。扉を開けると冷気が私を包み込んでくれた。いつも通っている大学ではないけれど、同じ様な匂いが感じられて嬉しい。
 大学一年生の私は夏休みを利用して、高校の頃はできなかったバイトを、多く体験しようと考えた。それに珍しいバイトもあった方が就活に有利なはず。
 そこで私のお父さんから小さな頃から仲良くして貰っている啓祐叔父さんが、AI入力のバイトを募集していると聞いたので一週間働く事にした。
 案内板を見ながら部屋に向かって歩いていく。
「藤林AI研究所」と言う文字が見えた。
 私はそのドアの前に立ち、ボタンを押してから自分の名前と要件を伝える。するとここまで歩いていく音が聞こえた。
「いらっしゃい」
 啓祐叔父さんが出迎えてくれた。穏やかな性格の啓祐叔父さんは、時折私の悩みも聞いてくれる。
 私は中に入りドアを閉めた。
「暑くもなければ寒くもない。ちょうど良いですよ」
「それは良かった」
 啓祐叔父さんと私は笑う。
 ここに来る前啓祐叔父さんから「パソコンが密集しているのでその熱の分、返って寒くしているかもしれない。カーディガンを持っていた方が良い」と言われた。でも入ってみたらそんな事はない。
「じゃっ、ここで」
 啓祐叔父さんは誰も座っていないテーブルの方に案内する。
 私は椅子を引いてから座り、バッグから履歴書の入った封筒を取り出してテーブルの上に置く。
 啓祐叔父さんは向かい側に座り、封筒の中身を確認した。
「へぇー。商品の仕分け作業をしたんだ」
「期間中、充実してました」
 啓祐叔父さんは笑った後、研究者の顔に変わった。
「多分聞いてる思うけど僕がここの室長、及び今回募集しているプロジェクトリーダーを担当している藤林啓祐です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
 啓祐叔父さんの礼に合わせて私も頭を下げた。
「それではまずはこの契約書の中身を確認して下さい」
 私はテーブルに予め置いてある契約書を見た。守秘義務や報酬の面など事細かに記入されているけど、おかしいと感じる部分は特に見当たらない。
「今から話す仕事内容は、採用の合否や勤務期間中や終了後に関わらずブログやSNSなどのインターネット上は勿論、知人や家族など外部に漏らすのは硬く禁止です
 もし他の仕事の面接の際などに伝えたい場合は、日海大学藤林AI研究所でのアンドロイド研究の手伝いとだけ言って下さい」
「分かりました」
 それから私は細かい契約内容のやり取りをして、名前と住所を書いてから捺印をして、タイピングや一般常識などの採用試験に移った。結果は無事「合格」と言われた。


「では仕事内容の説明に入ります。ここでして貰いたい事は、不快と思われる人の行為についての入力です
他の複数の大学及び会社と共同でやっている研究で、入力された内容は一つのクラウドデータで共有されます
仕事内容についてはパソコンで文字が打てれば誰でもできる内容ですが、不快と思われる内容が次々と出てくる性質上、気分を害する事があるかもしれません」
「はい」
「入力した内容はAIのデータとしてアンドロイド間で使われ、人間と見た目がそっくりなアンドロイドが同じ内容に遭遇した場合、その人間に直接注意を行います」
「アンドロイドってやっぱりいるんだ」
 思わず素の反応をしてしまった。ニュースやネット記事で、自分達が気づかないだけでアンドロイドが潜んでいる事は知っていたけど、いまいち理解できていなかった。
「はい。全国各地にいます
ちなみに何人いるかは、すいませんが秘密にさせて下さい」
 何”体”じゃなくて、何”人”なんだと思った。けど流石にそれは言わない。
「それでは実際の入力に移りたいと思いますので来て下さい」
 私は啓祐叔父さんに促され、青のパーティションで仕切られた扉の部屋に入った。軽く周りを見渡す。研究員らしき人達がそれぞれのパソコンで、プログラムか何かを入力している。
 その一方で別のブースでは私と同じくらいの年齢の男の人から、50代くらいの女性まで、色んな人達が同じ画面を使って日本語を入力している。
「ではここにお座り下さい」
 両隣の人に軽く挨拶をしようとしたけど、仕切りが付けられている為挨拶せずに空いている席に座った。
 画面には次のように文字が表示されている。
『列車に乗っている際に、隣の席の人が弁当を食べた。
不快か?どうか?
0-分からない 1-全くそう思わない 2-少し気になる 3-とても不快- 4-非常に不快』
「このように文章が表示されます。その下の選択肢で不快か感じるかどうか選んだ後に、そう思う理由を回答内容として入力欄に書いて下さい
それと見られながら回答するのが嫌かもしれませんが、ちゃんと操作できるか見たいので、この一回分は我慢してもらえたらと思います」
私は操作に戸惑いながら<2-少し気になる>のボタンを押した。すると選択肢の下にある灰色だった入力欄が白色に変わり、文字が入力できるようになった。
「そしてここに理由を入力します。」
 私は少し考えてから文字を入力した。
『基本的に良いと思う。ただし、くさやみたいな臭いの強烈なのものはNG』
「文字を入力し終わったら<確認>ボタンを押して下さい
また多少の文字間違いは自動的に訂正されてデータとして蓄積されますが、あまりにも誤字・脱字が多かったり、明らかに選択番号と書いている理由が合っていないのが続いたりすると、バイトを辞めさせて頂きますので注意して下さい」
 私は文章を確認してたから<送信>ボタンを押すと、『入力されている内容に間違いはありませんか?』と表示されたので、<送信>と<修正>ボタンの中から<送信>ボタンを選択した。
 すると次の質問文が表示された。
『バイキング会場で食べ物の前で大声で喋る団体客がいる
不快か?どうか?
0-分からない 1-全くそう思わない 2-少し気になる 3-とても不快- 4-非常に不快』
「このように一つの質問文の回答をし終えると、次の文章が出てきます。この繰り返しを行って下さい
ちなみに自己診断テストや個人情報の収集にも似ていますが、そう言った類のではないので安心して貰えたらと思います。
アンドロイドは理由について書かれた、回答内容に基づいて注意します。
何か質問はありますか?」
「他の人も同じ質問内容で入力するのですか?」
「はい。ですが別の質問内容を他の人が入力している事もあり、ランダムです
またアンドロイドは、入力者の付けた質問内容の『0-分からない 1-全くそう思わない 2-少し気になる 3-とても不快- 4-非常に不快』の点の平均値を出して、3点以上のものが出た内容しか喋りません
2.99点以下のものは、注意する内容としては微妙だと言う判断をしています」
「あの、監視とかはあるんですか?」
「監視機能はありません
あくまで各アンドロイドに設定された生活サークルの中で見た、迷惑行為に合わせて注意をするだけです」


 一通りレクチャーが終わると本格的に入力作業へ移った。
『電車で化粧をする人がいる』や『映画鑑賞中に携帯電話が鳴っているが、止めようとしない』など、また『蕎麦屋で注文した料理に自ら唾を入れた』と言った、聞いた事のないような迷惑内容まで出た。
そう言った入力を休憩1時間挟んで、合計4時間ほど行った。


 2日後、私達バイト側は映写室に集められた。人数がある程度集まったので、実際に入力した内容がどう使われるのか見せると言う。
 昨日は初回のような説明がなくなった分5時間もしたけど、今日は再現を見せてくれるからその分しなくて嬉しい。それに明日はお休みだ。
 私はそうやって内心ウキウキしながら啓祐叔父さんの説明を聞いている。
「以前、『映画鑑賞中に大声で話しているお客さんがいる』と言う質問内容文の回答入力をしました
その質問内容文では3.82の平均点を出しましたので、アンドロイドが同じ状況に出くわしたら注意する事になります
ですので今からアンドロイドが注意する場面を再現します
ちなみに皆さんから見て、一番右端にいる男性はアンドロイドです
と言っても今いちピンと来ない方もいると思うので、今からこのアンドロイドの間接を外します
なお人体の不自然な変形が苦手な方は、しばらく部屋から離れて下さい」
苦手な人を待った後、半袖半ズボンの格好のアンドロイドの男性の腕を、待機していた研究室の男二人が動かした。
 するとアンドロイドの腕が下に垂れ下がった。
 また台に乗った研究員の一人がアンドロイドの首に手を掛けて、ろくろ首のように伸ばした。
「このように後皮を外すだけで、アンドロイドのメンテナンスが、しやすいようになっています
ではそろそろスクリーンに映像を流しますので、皆さん好きな位置に座って下さい」
 呆然としたまま私達が席に座ると照明が落とされた。またアンドロイドは何時の間にか元に戻している。
 映像が流れる。ロボットアニメのようだ。
 しばらくすると再現役の女性のブツブツした声が聞こえる。
「うわっ、この構図甘いな。あーそこでBGM流すの、しかも選曲合ってねーし」
 まだ喋り続けているようで、再現とは言え気になる。
「すいません。映画に集中できないので黙っていてもらえますか?」
 すると一番後ろの席にいるアンドロイドの男性が注意しだした。初めて聞くアンドロイドの声だけど、それほど不自然さが感じられない。
「私は楽しでるだけなんですけど」
 再現役の女性がそう答えると、アンドロイドの男性は映写室から出ていった。
「何だこの声優、演技下手だな・・・」
 再現役の女性はまだブツブツと呟いている。
 アンドロイドの男性が制服を着たスタッフ役の女性を連れてきながら戻り、再現役の女性の所へと向かう。
 そしてアンドロイドの男性とスタッフ役の女性が、再現役の女性の顔に引っ付きそうなくらいに、顔を近付ける。これだと再現役の女性からは映画は見えない。
「お帰りください」
 スタッフ役の女性は突き放すような感じで言った。
「分かりました!」
 再現役の女性は怒りながらアンドロイドの男性とスタッフ役の女性と共に、映写室から出て行った。
 アニメが中断され映写室が明るくなり、先ほどの3人がまた現れた。
 私も含めてその再現の様子にみんな驚いている。とは言え中には拍手している人もいる。
「このように迷惑なマナーを行う人に注意を行い、それでも変わらない場合は対処法も行います
もちろん注意された女性がその場で黙ったら何もしません
何か質問がある人はいますか?」
「はい」
 今日同じバイトとして入ってきた、グレーのVネックの男性が手を上げた。
「実際にそう言う事をしたんですか?」
「はい。しました」
 空気全体がさっきとは違って、引き気味になっている。
「分かりました。あとバイトを受けた時から思っていたのですが、アンドロイドにやらせる意味ってあるんですか?」
 Vネックの男性はケンカ腰と言うよりも、気になる事ははっきりと聞きたいタイプのようだ。
「うーんそうですねー・・・」
 啓祐叔父さんは穏やかな部分を少し見せながら頭を掻いた。
「僕はアンドロイドは人間と近しい行動をさせるものだと思っています
その定義があるから、だからそう言われると困ったなぁーと言う感じです
でも本堂さんの言う通り、何で人間と同じ事をするの?と思う人は沢山いると思いますし、ごもっとです」
僕がこの研究を発案した理由は、人間ができない事をするのもAIやアンドロイドの役割の一つですが、逆にするのが難しい事をさせるのも役割の一つだからと考えているからです
それにさっきの再現のように、お客さんに注意したり対処をするのも、人間がするよりも試しやすいと思います
その理由の一つとしてはアンドロイドには恐怖心がありませんし躊躇いもありません
あの例ではあくまでも一般客であるアンドロイドが、注意できる事を伝えたかったのですがこれを店員としてさせても良いようにも思います
またアンドロイドが見ている映像は基本的に見れたりできますので、バイトの皆さんが入力している回答例や、また対処法も確認できると言った利点もあります
あまり答えになっていなくてすいません」
 啓祐叔父さんは申し訳なさそうに言った。
「いいえ。お答え頂きありがとうございました」
 Vネックの男性はそう言ってから一礼した。


 今日のバイトが終わると夕方の時間になり、周囲の建物には明かりが灯り始めていた。
 私は乾いた喉と小腹を満たすためにコンビニに立ち寄った。
 おにぎりコーナーに並びツナマヨネーズに手を掛けようとする。
「あぁっ!? もう一回言ってみな!」
 突然すごい剣幕の男の怒鳴り声が聞こえた。
 びっくりして振り向くとサングラスを掛けた坊主頭の中年の男性が、カウンター越しに若い男性店員を怒鳴り付けている。
「ですから本人確認ができないと、タバコはお渡しできないんです・・・」
「いや! そこじゃなくてな!! お前俺の声が甲高いからまるで少年のようですと言ったよな!?」
「は・・・はい・・・」
「口の言い方には気を付けれ大バカタレ!!」
 若い男性店員が萎縮しっぱなしのに対し、坊主頭の男性は一方に罵り続ける。
 他の客の一方は冷ややかな目でその現場を見ていて、もう一方は隣のレジで、冷静な感じで店員と商品のやり取りをしている。
 私には両方ともそうやってやる度胸はない。
 買うのを止めにして店から出ようと決めた。
「すいません! 他の他のお客様の邪魔です!」
「あぁっ!?」
 このやり取りで気付かない間に入ってきた映写室で見たアンドロイドが、文句を言っている坊主頭の男性に声を掛けた。
「貴方様がこうして店員に文句を言っていると、他のお客様が待たされてしまいます」
「隣のレジを使えやボケ!!」
「一方のレジが使えない分、余計に待たされてしまいます
店員に文句を言いたい場合は、この場を離れて電話口でお願いします」
「お前何様や!!」
「あなたと同じお客様です」
「殴って良いか!?」
「思いっきり殴られても良いように外に出ます」
 アンドロイドは後ろ向きでその場を離れる。
「口の訊き方には気ぃつけんかい!」
 坊主頭の男性はアンドロイドに向かって物凄い勢いで殴りかかろうとする。
 するとアンドロイドはすぐさま肩に掛けていたバッグから唐辛子スプレーを取り出し、坊主頭の男性の顔に吹き付けた。
 坊主頭の男性はその場で呻きながらのけ反り、すぐさま警察の人が来た。
 私はその場で座り込んでしまった。


 次の日の夜、私は友達の美沙と一緒に祭り会場に来ていた。
 あのコンビニの件が怖かった事を美沙に伝えたら、元気付けようと美沙の方から誘ってくれた。
「今日は誘ってくれてありがとう。美沙から誘わなかったら私から言うつもりだったけど」
「何言ってるの。私が言わなかったらずっと家にいたでしょ」
 美沙は悪戯っぽい口調で私に返す。
 そんな軽口を飛ばし合いながら私と美沙は歩く。
 本来なら花火の場所取りを早めにするつもりだったけど、露店をあれこれ見たりリンゴ飴を買ったり、催し物を眺めたりする事で予定がずれていく事も楽しい。
 空は薄暗いけど、その分カラフルなその景色に集中できる。
「うわーーーーーーーーーーん!」
 突然、小さな男の子が泣き出している声が聞こえてきた。私と美沙はその方向を振り向く。
 屋台の金魚すくいの近くにいる、金魚袋を持った小さな男の子が泣いている。
 横にいる太った中年の女性が、露店に向かって何度も大きな声で「この金魚はいつか死ぬこの金魚はいつか死ぬ」と何度も言っている。
 多分、この中年の女性はこの子のお母さんではない。目が悪意を持っているみたいに明らかにおかしい。男の子は何で一人でいるの?
 金魚すくい若い女性店主は呆れ返っている。周りは迷惑がっていたり、スルーしていたりする。
 その時私は思った。あのアンドロイドが来てくれたら良いのに。
「紗也香、この場を離れよう?」
 美沙がすごく心配している表情で私の目を見ている。
「こんな怖い人と続けて会うのたまにはあるって」
「ごめん。ちょっと男の子の所に行ってくる」
「ねえ紗也香って!」
 私は駆け足で男の子の所に向かう。突然お母さんらしき人が急いでやって来て、男の子を抱えたと思ったら、ものすごい速さで走って行って見えなくなってしまい、太った中年の女性は高笑いをし始めた。


 翌日、私は昨日と同じ様に研究室に向かい入力を行った。
 正直休もうかと思ったけど、一週間だけのバイトだから休んだら情けないし、社会人として経験が積めないと考え直した。
「藤林さん」
 突然後ろから啓祐叔父さんに呼ばれた。どうやら面接を行ったあのブースで何か話があるみたいだ。私は席を立った。


「申し訳ない!」
 啓祐叔父さんは座るなり突然頭を下げて私に謝った。
「どうしたんですか?」
「コンビニで起こった事見たよ」
「ああ・・・」
 あの後映像として見たんだと感じた。
「アンドロイドが注意をしたから、君に余計に怖い思いをさせてしまった
 だから本当に申し訳ないと思っている」
「本当に気にしないで下さい」
 頭を下げるほどの事じゃない。
「確かにあの時アンドロイドが言わなかったら、すぐに逃げられたのにと思いました。でも・・・」
 私の目から涙が流れた。これが自分の今の感情なんだろうと思う。
 啓祐叔父さんは心配そうな表情で、私を見ている。
 私は自分の奥底にある気持ちを掘り起こした。
「無気力だった事の方が嫌と言うか、悔しいです」
「無気力?」
「自分では何もしなかったからです
コンビニの時はその店員も『甲高い声で少年のようだ』と言ってるのも悪かったと、家に帰った後で思いました
でもアンドロイドが言ったようにレジで直接怒鳴り付けるより、電話口で注意する方が確かに正しいと感じました
けれど私自身がそう思ってもそれを言う勇気はありません」
「うん」
「それと昨日、私はまた似た場面を見ました。だから私は無気力だったり勇気が出ない事が嫌だったので、止めようとしました
子供がある人のせいで泣いていて、それで困っている子供を助けたいて思いました
けれどそうする前に、その子は母親らしき人に抱えられてその場を離れました
すぐに母親に助けられた分は子供は助かったかもしれない。でもどこか無力だって言う気持ちが抜けないんです
私は普段から人に注意する勇気がないんです」
「・・・」
 啓祐叔父さんはいつも相談している時のように、私に起こった事を受け止めようとしている。
「みんなそうだと思う でも僕は紗也香がそう言う風に行動に移してくれたのは嬉しく感じている」
「えっ?」
 自分の言動に対する意外な考え方に、私は驚いてしまった。
「迷惑な人がいたら注意したい人は沢山いる
けれど紗也香をそうさせてしまったコンビニでの事件のような事もあるし、注意した後の事を考えたり、周りに余計に迷惑をかけたらと思ってやり過ごす人が多いし、僕はその一人だ
だから自分含む注意できない人間の代わりとしてこのAIを作っているし、注意する負担を減らしたい目的だってあるし、アンドロイドを見ることで勇気を持って欲しいとも思っている
でも人に注意できるアンドロイドの数はそんなにいるわけじゃない
そう言うアンドロイドを増やそうと言う計画は今の所ないし、増やせば良いってもんじゃない。結局は人間が注意できた方が良いんだ
だからそうやって注意しようとしたのが僕は嬉しくもある」
「ありがとう」
 私自身が無気力だと思っていた部分が、少しは救われたような気がした。
「でも反対に危険な目に遭わないで欲しいから、だから人に注意してねとは上手くは言えない
けれど人を救いたいと言う気持ちだけは忘れないで欲しい
迷惑な事に無関心になれば、迷惑を受けている人を救わない事だって多いから」


 それから残りのバイト日数を、何もトラブルがなく無事過ごす事ができた。
 回答入力に慣れれば、質問文や対処法も入力できると言う。私は自分の気持ちを込めて、集中して取り組んだ。
 啓祐叔父さんの手伝いの次は、コンビニで働く事を元々考えている。
 私は少しずつでも人に注意できない自分を変えていきたい。啓祐叔父さんの所で得た経験を活かす事ができたらいいと思う。