反応が早過ぎる奴

反応の早い友達の異様な話。

ショートショートの日常系。

俺の友達は反応が早過ぎる。名前はこの際どうだっていい。
ある日学校の授業中、俺はそいつと同じクラスだがお調子者のそいつは隣のクラスメイトとふざけて喋っていた。

「コラッ!」
担任の若い女教師が二人の間に向かって黒板消しを投げ付けた。
するとそいつはその黒板消しにすぐに反応して、片手で受け止めた。

ここまではよくある話で拍手も起こったが、別の日の給食の時間だった。
俺達のクラスは自分達で取りたい分を取るが、そいつはシチューを鍋から掬って皿に入れようとした時、いきなり「あつい!」と言った。
そして皿にシチューが入った時、皿の中に入れていたそいつの指にかかった。
そいつはシチューが指にかかる前に熱がった。

また同じ日の体育の時間、ドッジボールをしていた時だった。
相手側のチームがボールの狙いをそいつに定めた。
そいつはボールを受け取ろうと構え、相手はボールを投げた。
「ふわっ!」
突然ボールが当たる前に大きく尻餅を付き、そしてボールが当たった。

放課後俺はそいつを呼び出した。
「なあ、わざとやってねえか?」
「全然」
そいつはあっさりと否定した。
近頃そいつの反応が段々早くなっているような気がする。

ある日の帰宅途中いきなりバッグから慌てて何かを取り出したと思ったら、雨が降っていないのにもかかわらずそれは折り畳み傘だ。
開いて差した状態で歩いていたら天気雨が突然降り出した。

また別の日いきなり俺に「ごめん!　ノートまだ返してなくて!」と謝り、
ノートを貸していてないのに何事かと思ったら一週間後そいつにノートを貸すハメになり、それからまた一週間経ってもそいつは返さず、
実際にノートを貸している状態に限って謝りも何もしていなかった。

それからまた別の日には、いきなり泣きながら「カナコ死んじゃったね」と言い、「カナコって何だ?」と思ったら
二週間後にお互いシャレのつもりで見た、恋愛映画のヒロインの名前だった。
二週間前あんなに泣いていたにも関わらず映画館から出た時、見た癖にまるで興味も示していない。

「ノートって何？」「カナコって誰？」と聞いてもそいつは無視をする。

そして映画を見てからの次の日の日曜日だった。
引っ越した他の友達の家に行った帰り、俺とそいつは青信号になってから、横断道路を渡った。
「痛い!」
突然そいつはその場で倒れ込み足を押さえて転げ回った。
「おい、大丈夫か!?」
それからすぐ救急車を呼び、そいつは原因不明の足の骨折で、一ヶ月間入院する事になった。

一ヶ月後、無事そいつは退院し前のように友達の家で遊び、例の横断歩道で待っていた。
しかし調子に乗りやすいそいつは赤信号にも関わらず、車も走っているのに関わらずいきなり道路を渡った。
「おい!」
俺の静止を聞かないそいつは、横からの車が怪我した足に当たった。
しかしそいつは倒れず、普通に道路を渡り続けた。

俺はそいつと付き合って分かったことが一つだけある。
それは反応が早過ぎる奴は、反応のない奴と何も変わらない事だ。