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常にクリエイターでいたいがアーティスト傾向が高い人間の考えまとめ。自分が読み返して、面白かったりタメになったりしていますように

小説 二人の引きこもり(3205文字)

「・・・・・・」
「・・・・・・・・・。」
雨が降る中、初対面の男性二人がマンションの一室で、さっきから無言状態でテーブルに座っている。
一方の男はスマートフォンを手に持ちメールを見つめている。もう一人の男もポケットからスマートフォンを取り出して、課金ゲームをし始めた。
一方の男、卓夫は今日、仲間と会う予定だった。
卓夫は18歳の頃高校を卒業して実家通いのまま大学に進学したのは良いが、周囲と上手く馴染めず大学を退学して引きこもりになった。
それから職業訓練校に入りデータ入力会社に就職したがコミュニケーション力がなく、来客応対や後輩指導をさせてもらえず「能力が普通の、打つだけの人」と見なされ黙々とデータを打ち続けるポジションにされた。プライベートどころか仕事時にも人ときちんと会話をしていない。
そんな卓夫は4年前から始めているmixi内で、「会話できない 引きこもり集まれ!」コミュニティに参加している。
卓夫はネット上でも会話が出来ず、ただコミュニティ参加者の中に興味を持てる人間がいた。その男に積極的にコンタクトを取って交流が出来るようになった。
卓夫にとってその男は、まず自分が珍しいと思っているmixiに登録している時点で興味を引く。
次に機能しているのが奇跡的だと思える、コミュニティを利用していているのが物珍しい。
そしてその男は本名 浩で登録しており、彼の投稿内容に強く共感を覚えた。文章はほとんど書いていないが、毎日のように載せるご飯の写真が自分と似ているからだ。
会社員と書いてある浩は、給料を貰った日からしばらくは冷凍食品のカラフルな料理が続くが、やがて温めるのに飽きて色が地味で似たような感じの料理が続くのが自分と似ていた。
だから卓夫は積極的に会話をし(文章のテンションは相手含めて常に高くないが)、自分の住所と部屋から出て撮ったマンションの写真を送付して、会う約束を取り付けた。
そして会う時間になりチャイムが鳴り卓夫は扉を開けた。
「こんにちは・・・・」
「・・・ようこそ」
そんな言葉を交わしその男は部屋の中に入る。ネットで何度もやり取りしているとは言え、顔写真を載せていないのもあり緊張している。その時、空は確かに曇りがかっていたが、雨になるとかはそれほど考えていなかった。
「・・・・あの。俺浩ではありません」
「は!?・・」
その言葉に卓夫は驚いた。
「俺は浩の弟です」
そう言いながら浩の弟は黙って卓夫の横を通り過ぎテーブルに座り、卓夫は「・・・・・・」と沈黙したまま座った。
浩の弟が言う。
「急にやる気が無くなり代わりに会って欲しいと頼まれました」
「あの・・・・・・ 弟の話聞いたことがないんですが」
急に雨が降り出し部屋の中が暗くなった。
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・。」
気まずいとは違うが何とも言えない重い空気が二人にのしかかる。
浩の弟が喋り出す。
「あの・・・・・・。俺、口下手です。ついでに引きこもりです。勘弁して下さい」
「聞きたいことがあるんですが本当に弟ですか? 本当は浩さんなのに違うって嘘付いてるんじゃないですか?」
「まさかそんな事はありませんよ!」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・。」
より空気が重くなった。
浩の弟が口を開く。
「あの・・・・・本当は『そんな事はありませんよ』じゃなくて『そんな事は言いませんよ』と言う方が正しいのでしょうか?」
「分かりません」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・。」
「兄さんからmixiのメールは来ていないのですか?」
「カクニンシテミマスノデチョットオマチクダサイ」
「すいません。何で言葉が固いのでしょうか?」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・。」
「メールを確認します」
卓夫はスマートフォンを開いてmixiのページを見た。メールは来ていない。
浩の弟が聞く。
「卓夫さんの方から聞いてみればいいのじゃないでしょうか?」
「分かりました。そうしてみます」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・。」
卓夫は浩に向かってメールを書く。
浩の弟はポケットからスマートフォンを取り出して、課金ゲームをし始めた。
「『なぜ来ないのですか? 弟が来ています。』」
卓夫は送信した。だがしばらく待ってもメールが来ない。
卓夫は口を開く。
「メール返ってこないですね」
「兄はそう言う人だと思います」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・。」
メールの着信音が鳴った。卓夫はmixiを開いた。浩からだ。
「『申し訳ありません。』」
その一行のみである。
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・。」
「あの・・・・・・。普通はネットで知り合った人と初めて会う時は家じゃないと思うのですが」
「そう言うものとは思いませんでした」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・。」
雨が強さを増してきた。
浩の弟が尋ねる。
「すいません。どんな仕事をしているのでしょうか?」
「データ入力をしています」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・。」
浩の弟が再度聞く。
「あの・・・・・。今日の朝ご飯は何を食べたのでしょうか?」
「パンを食べました」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・。」
卓夫が聞く。
「弟さんは浩さんと一緒に住んでいるのでしょうか?」
「はいそうです」
「浩さんは良くしてくれるのでしょうか?」
「よく分かりません」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・。」
「ここに来るまで迷わなかったのでしょうか?」
「マップがあります」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・。」
浩の弟が聞く。
「ところで、さっきの『確認してみますのでちょっとお待ち下さい』はよく使っているのでしょうか?」
「どう言う意味でしょうか?」
「俺は無職です。多分、あなたと同じ年齢だと思います」
「分かりました」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・。」
「仕事をしていないので、仕事をやっている人の言葉が羨ましく感じます」
「そうなんですか」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・。」
「俺は人と触れ合う能力がありません。その他にも何も能力がありません
会社に入ったことはあるのですがすぐに辞めました」
「そうなんですか」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・。」
「俺は小学生の頃からずっと引きこもりです」
「そうだったのですか」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・。」
「仕事を何とかしたいです 人と会話したいです」
「・・・・・・そしたら何とかするしかないんじゃないでしょうか?」
「そうなんですよね。でも結局家にいたり、時々外へ出るだけでいいやと思ってしまうのです」
「そうなんですか」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・。」
「一体どうすれば良いのでしょうか?」
「自分も知りたいです」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・。」
卓夫が聞く。
「あの・・・・。なぜ頼まれたとは言え自分に会いに行こうと決めたのでしょうか?」
「え?・・・・・。兄から交通費とお金を貰ったからです
盗らないで下さい これです」
そう言って浩の弟は財布をポケットから出し、そこから一万円札を取って卓夫に見せた。
その一万円札を卓夫は凝視した。
卓夫が聞く。
「この一万円札・・・・・・。二人で使い切った方がいいんじゃないでしょうか?」
「え?・・・・・・」
「何とかしたいと思いませんか? 会話できない同士で使わないと意味がないと思います」
「え?・・・・・・ 外はまだ雨が降っていますが」
「降っていても傘を差して外に出れば良いと思います」
「傘は持ってきていません・・・・・」
「傘は余分に持っています」
「そうですね・・・・。外に出たいです」
卓夫と浩の弟は立ち上がり、玄関まで歩き傘立てから傘を取り出して扉を開け、傘を開いて鍵を掛け外に出た。